公益財団法人新潟県健康づくり財団

健康情報

働く世代における身体活動の重要性と効果 ― 日常の身体活動が未来の健康をつくります ―
新潟医療福祉大学 健康科学部 健康スポーツ学科長 
 佐藤敏郎 教授
 
働く世代の健康課題
 
 働く世代(おおむね20~64歳)は、仕事や家庭の責任が重なる人生の中心期にあり、多忙な生活を送っています。そのため健康管理が後回しになりやすく、体調の変化への対応が遅れる傾向があります。一方で、この年代は生活習慣病の発症リスクが高まり始める重要な時期でもあり、健康づくりの観点から極めて重要な層です。

 身体活動の低下は将来の疾病リスクの増大だけでなく、慢性的な疲労感や集中力の低下、睡眠の質の低下など、日常生活の質にも影響を及ぼします。また、働く世代の健康状態は個人にとどまらず、職場や地域社会にも影響を与えます。
 したがって、働く世代における身体活動不足の改善は、個人の健康維持・増進に加え、社会的活力の維持の観点からも重要な課題です。
 
新潟県における身体活動の現状
 
 新潟県における身体活動の現状は、県民健康・栄養実態調査から把握できます。令和5年の調査では、20歳以上の1日当たりの平均歩数は、男性6,007歩、女性5,062歩であり、いずれも全国平均(男性6,628歩、女性5,659歩)を下回っています。

 年次推移を見ると、平成27年から令和元年にかけて減少し、その後やや回復しているものの、全国水準には達していません。男性は6,224歩から5,798歩へ減少後、6,007歩まで回復、女性も5,351歩から5,098歩、5,062歩と推移し、全体として横ばい傾向が続いています。
 また、運動習慣者の割合は働く世代で低く、30~50歳代では男女ともに20%前後にとどまります。一方、60歳代以降では増加する傾向がみられ、年齢とともに健康意識が高まることが示唆されます。
 このように新潟県では、働く世代において「歩数」と「運動習慣」の双方が十分とはいえない状況にあります。その背景には地域特性が関係しています。
 まず、自動車への依存度の高さが挙げられます。通勤や買い物など日常の移動の多くが車中心であり、自然に歩く機会が少ない構造となっています。
 さらに、冬季の降雪や日照時間の短さなどの気候条件も、屋外活動を制限する要因です。特に冬季は外出機会そのものが減少し、身体活動量の低下につながります。
 加えて、テレワークやデスクワークの増加により、座位時間の延長と活動量の減少が進んでいます。
       
       
(出典)新潟県「県民健康・栄養実態調査」(令和5年)        
(出典)新潟県「県民健康・栄養実態調査」(令和4年)

運動による身体への影響(効果)
 
 適度な身体活動はエネルギー消費量を高め、体脂肪の蓄積を抑制し、内臓脂肪型肥満の予防・改善に寄与します。内臓脂肪の減少はインスリン抵抗性の改善につながり、生活習慣病の発症予防に重要な役割を果たします。その結果、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病などの発症リスクの低減が期待されます1)。また、運動は血管機能を改善し、動脈硬化の進行を抑制することで、心筋梗塞や脳卒中の予防にもつながります。

 さらに、持久力や筋力の維持・向上も重要な効果です。持久力の向上は、疲れにくい身体をつくるとともに、日常生活や仕事における活動効率の向上につながります。また、筋力の維持・向上は、特に下肢筋力の強化を通じて歩行能力や移動能力を高め、身体活動量の増加を促します。加えて、体幹を含む筋力の向上は姿勢の安定やバランス能力の改善に寄与し、腰痛や肩こりの予防・軽減にも有効です。これらの体力の維持・向上は、将来的な転倒やフレイルの予防にもつながります。
 
心身への影響と仕事への波及
 
 身体活動はメンタルヘルスの維持にも重要な役割を果たします。適度な運動はストレス反応を軽減し、気分を安定させます2)。また、休日に身体活動を含む積極的な余暇を過ごすことは、心身の回復を促し、結果として仕事に伴うストレスの軽減や意欲の向上につながると考えられています。こうした回復は、週明けの心理的負担を軽減し、仕事への集中力の向上にも寄与します。

 さらに、運動習慣のある人は睡眠の質が高く、入眠がスムーズであることが知られています。質の高い睡眠は疲労回復だけでなく、認知機能や免疫機能の維持にも関与し、日常生活の質を高める重要な要素です。このような心身の回復は仕事のパフォーマンスにも影響し、運動習慣は集中力や作業効率の向上、さらには体調不良による仕事の効率低下の改善や欠勤の抑制にも寄与するとされています2)
 
推奨される身体活動量

 身体活動の推奨量については、厚生労働省の「アクティブガイド」1)が参考になります。この中では、「+10(プラステン)」、すなわち今より1日10分多く身体を動かすことが推奨されています。
 身体活動は、通勤や家事などの日常動作(生活活動)と、計画的な運動の双方を含みます。成人では、歩行など中等度以上の活動を1日合計60分程度行うことが目安とされています。
 これらは連続して行う必要はなく、短時間の活動を積み重ねることでも十分な効果が期待できます。
 
座りすぎのリスクと対策
 
 近年、「座りすぎ(長時間座位)」が独立した健康リスクとして注目されています1)。長時間の座位は下肢の筋活動を低下させ、血流の停滞や代謝機能の低下を引き起こします。その結果、心血管疾患や糖尿病のリスクが増加することが報告されています。

 重要なのは、運動習慣がある場合でも、長時間の座位が続くとその効果が相殺される可能性があるという点です。そのため、日常生活においては「座り続けない工夫」が必要となります。具体的には、1時間ごとに立ち上がる、短時間の歩行を取り入れる、立位で作業を行うなどの方法が有効です。
 
日常生活に取り入れる具体的な工夫
 
 運動習慣を定着させるためには、日常生活の中に無理なく身体活動を取り入れることが重要です。まずは「歩くこと」から始めることが現実的であり、特別な準備や時間を必要としない点でも有効な方法といえます。たとえゆっくりとした「ぶらぶら歩き」であっても、まずは身体を動かし始めること自体に意味があります。

 一方で、健康効果をより高めるためには、段階的に運動の強度を高めていくことが重要です。具体的には、歩く速度を少し速くする、歩幅を広げる、階段や坂道を利用するなどの工夫により、心拍数を適度に上げることが推奨されます。目安としては、「少し息が弾む程度」の強度が適切とされています。
 歩行の強度を高める際の具体的な目安としては、個人差はあるものの、「何か急いでいるのですか」と周囲に思われる程度の速さで歩くことが一つの指標になります。この程度の速度で歩くと自然と腹筋に力が入り、体幹の安定性が高まり、全身の筋活動が促進されます。
 また、歩幅を広げることも重要なポイントです。普段よりも足を遠くに踏み出すように意識することで、太もも(大腿部)の筋肉への負荷が高まり、筋力向上やエネルギー消費の増加につながります。このように、単に歩数を増やすだけでなく、「どのように歩くか」という質を意識することが、より高い健康効果を得るうえで重要です。
 さらに、日常生活の中には身体活動を増やす機会が数多く存在しています。例えば、大型商業施設内を歩き回るだけでも、2,000~3,000歩程度の歩数になることがあります。また、広い駐車場ではあえて遠い場所に車を止めて歩く距離を増やすといった工夫も有効です。こうした小さな積み重ねは一見わずかに見えますが、1日の総活動量を確実に押し上げる要素となります。
 重要なのは、必ずしも目標歩数を達成することだけにこだわらないことです。仮に1日の歩数が目標に届かなかった場合でも、その中で1,000歩や2,000歩分でも「速く歩く」「歩幅を広げる」といった質の高い歩行を行うことができれば、健康効果は十分に期待できます。すなわち、量だけでなく「中身(質)」が重要であるといえます。
 
職場・地域での取り組みの重要性
 
 運動習慣の定着には、個人の努力に加えて、職場や地域の支援が不可欠です。職場単位での取り組みは、参加者同士の相互作用により継続性を高める効果があります。例えば、歩数チャレンジやウォーキングイベントは、楽しみながら身体活動を増やすことができる有効な方法です。
 また、健康づくりが職場文化として定着することで、運動は特別な行為ではなく日常の一部として受け入れられるようになります。こうした取り組みは「健康経営」の観点からも重要であり、従業員の健康維持は企業の持続的成長にも寄与します。

さらに、今後の具体的な方策として、健康診断にあわせて体力測定を導入することが有効です。これにより、自身の体力レベルを客観的に把握することができ、運動習慣の形成に向けた動機づけにつながります。健康状態と体力の両面を継続的に確認することで、より実効性の高い健康づくりが期待されます。
このように、日常生活の中での工夫と職場環境の整備を組み合わせることで、無理なく継続可能な身体活動の習慣化が可能となります。
生活の中で「少し動く」を積み重ねる
 
 働く世代の運動は、特別なトレーニングではなく、日常生活の中で身体活動を少しずつ増やすことが重要です。忙しい毎日の中でも、短時間で無理なく継続できる活動を積み重ねることで、健康状態は着実に改善していきます。

 運動は将来の病気予防であると同時に、現在の生活の質を高めるための重要な手段です。「少し足りない」を「毎日少し増やす」へ。この意識の変化が、働く世代の健康づくりを支える基盤となります。
 
1)厚生労働省.健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html

2)島津明人,江口尚.ワーク・エンゲイジメントに関する研究の現状と今後の展望.産業医学レビュー.2012;25(2):79-97.